森川和夫：廣重の風景版画の研究ー（１）
　古写真で読み解く広重の江戸名所

１８３．絵本江戸土産　御茶の水
　「聖堂よりなほ西の方、御堀をいふ。この所、両岸絶壁にして風景よし。殊に月雪を称すべし」広重の書き込みは簡にして要を得ている。

　御茶の水
　絵本江戸土産

　御茶の水付近
　幕末・明治の写真（ちくま学芸文庫）

　この写真は明治初期の湿板写真である。これが御茶ノ水かと目を疑るばかりであるが、矩形の枠組みのなかに「SEIDO CHINESE COLLEGE　セイドウシタ」と書かれているので間違いない。ただもう少し正確にいうと、現在の御茶ノ水橋が架かっている辺り、あるいはその少し先、順天堂病院の下あたりではないかと思われる。広重の絵との共通点は土手上からなだらかに下る坂道である。写真左手には樹木が鬱蒼と茂っているが、これらは、明治37年（1904）12月、甲武鉄道御茶ノ水駅の完成とともに完全に消滅した。

　広重の絵と異なる点は、神田上水の掛樋が写真では見えないことだろう。この点については、東京都教育委員会編纂の「江戸復元図」によりいろいろに検証したが、写真でも分かるように、神田川はこの先急激に右折しており、どんなに頑張っても掛樋は見えそうもない。ひとつでも名所を取り込もうとする広重の作意ではないだろうか。

　次回、神田川を右折したその先からさらに川の上流を望む図を採り上げ、再度掛樋の問題を検証してみたい。

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