森川和夫：廣重の風景版画の研究ー（２）
　広重と「江戸名所図会」

２１．蔦屋吉蔵板三枚続東都名所　上野東叡山全図 　
　もうひとつ、絵柄が酷似するものを挙げようなら、「上野東叡山全図」であろう。

東叡山寛永寺
原寸復刻江戸名所図会・下（評論社）

東都名所上野東叡山全図
広重江戸風景版画大聚成（小学館）

　「江戸名所図会」の東叡山寛永寺は、黒門に始まり、山王社から清水観音堂、そして寛永寺へと続く10枚続きの大パノラマで、「江戸名所図会」中出色の出来である。樹木が多いにもかかわらず、整然としかも伸び伸びとした展開を見せている。

　一方、広重の「上野東叡山全図」は文殊楼から中堂までを切り取り、視点を一段と上げ、これまた美しい大パノラマを現出させた。地面を落ち着いた黄色で刷き、社殿の屋根と回りの樹木とを青と緑で処理、それら全体に社殿の朱が点綴するなど賦彩の美しさはこれまた出色の出来栄えである。内田実氏は広重の東都名所に対し「観るべきものはない。但し賦彩は上手」とやや素っ気ない評価を与えたが、もう少し高い評価を与えてもいいのではないだろうか。

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