森川和夫：廣重の風景版画の研究ー（２）
　広重と「江戸名所図会」

２８．蔦屋吉蔵板三枚続東都名所　両国回向院境内全図
　広重の回向院は「江戸名所図会」を下敷きにしていると考えられるが、かといって図会をそのまま引き写してはいない。画面中央に大きく相撲小屋を描き変化をつけた。当然のことながら回向院表門の前には相撲の櫓が立っている。

回向院
原寸復刻江戸名所図会・下（評論社）

東都名所両国回向院全図
広重江戸風景版画大聚成（小学館）

　長谷川雪旦の回向院は何の変哲もない寺院の鳥瞰図で「江戸名所図会」に見られる典型的な挿絵だ。おそらく、このままではさすがの広重も三枚続の絵組みを作るのはむずかしい。回向院といえば、寺院のご開帳か相撲だが、ご開帳は俯瞰図法には馴染まないので、相撲小屋を配した。この相撲小屋があればこそ三枚続の錦絵が成立したといっても過言ではないだろう。

　雪旦の絵を見ると、本堂に向かって右手の空地はさほど広くはないように見える。一方、広重の絵はどうだろう。相撲小屋がいかにも大きく描かれている。実際はどの程度の大きさであったのだろう。おそらく、広重は相撲小屋を相当誇張して描いているように思えてならない。

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