森川和夫：廣重の風景版画の研究ー（２）
　広重と「江戸名所図会」

３３．江戸近郊名所　行徳塩浜之図
　今回とりあげる広重の「江戸近郊名所・行徳塩浜之図」は、どの程度「江戸名所図会」の影響下にあるのか必ずしもはっきりしない。しかし、なんらかのヒントを広重は得て作画を行ったのではないだろうか。「江戸名所図会」は広重の絵の左半分に一致する。塩浜の先には江戸湾が開け、左方中景には船橋あたりの海岸が、また水平線の彼方には安房・上総の山並みが描かれている。その部分、部分を仔細に比較すると、「図会」と広重とは必ずしも一致しない。しかし、絵全体が醸し出す雰囲気はよく似ているといえよう。

行徳汐浜
原寸復刻江戸名所図会（評論社）

行徳塩浜之図
広重江戸風景版画大聚成（小学館）

　広重の行徳塩浜之図をよく見ると、海浜に千鳥が群れ飛んでいる。行徳の千鳥は当時よく知られていたらしく、「江戸名所図会」に雪旦の挿絵が載っている。広重はこの行徳千鳥の挿絵にヒントを得て、絵の右半分を作画したのではないかと想像される。ここでは、参考までに、その雪旦の挿絵を引いておきたい。

行徳千鳥
原寸復刻江戸名所図会（評論社）

　今回はやや強引に「江戸名所図会」を広重に引きつけた感があるが、あるいは外に粉本とおぼしきものがあったのかも知れない。

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